29. Forsysia/春を告げる花として

Forsythia

Forsythia europaea の身体的特徴

Forsythia europaea(フォーサイシア・エウロパエア) モンテネグロからアルバニア北部、そしてコソボにまたがるバルカン山岳地帯の森林を自生域とする、レンギョウ属で唯一のヨーロッパ生まれの種です。

1897年まで、この属の植物はすべて東アジアにしか存在しないと考えられていたため、アルバニアでのこの種の発見は植物学界に大きな驚きをもたらしました。

高さ3mほどの直立した低木で、葉は卵形、5〜8cmの全長に滑らかな縁を持ち、他のレンギョウ属に比べ質素な姿をしています。

早春、枝の表面に残る葉柄の付け根の痕跡から1輪ずつ、直径25〜32mmの淡い黄色の花が静かに開きます。

それは、現代の園芸交配種のような華やかな花の群れではなく、枝にそっと置かれたような、控えめな佇まいの花です。

この種がアジアと分かれたのは、分子時計解析によれば約520万年前——後期中新世という現代に繋がる多様な生態系が確立された時代から温暖な鮮新世にかけてと言われています。

ユーラシアの気候が大きく変動し、その引き金によって、かつて地続きだった温帯林は途切れてしまいました。

その頃、東アジアとヨーロッパの個体群もまた互いに隔てられ、それに纏わる運命も別れていきました。

耐寒性は中国産種のどれよりもわずかに高いといわれており、F. suspensaと同程度かそれを少し上回るとされています。

この種は、その姿から最も地味な種として知られており、園芸の表舞台に立つことはほとんどありません。

それでもこの植物は、東アジアに起源を持つ属がかつてヨーロッパにまで版図を広げていたことを、バルカンの地でひっそりと証言し続けています。

各地で刻まれたForsythiaの文化

早春に黄金色の花を咲かせるレンギョウは、世界各地の文化の中でも特別な位置を占めてきました。

韓国では、개나리(ケナリ)と呼ばれるレンギョウが春を告げる花として愛されています。

また、韓国の伝統的の擦弦楽器「アジェン(아쟁)」の弓には、皮をむいたレンギョウの枝に、松の木から分泌された樹液が塗られたものが使われ、その弓が掠める平行に並んだ数本の弦はチェロに似た深く、やや粗削りな音色を奏でます。

それは、高麗時代に中国から伝わり、宮廷音楽から民俗音楽まで広く用いられてきました。

中国では、その黄金色が富と幸福を象徴するとされ、旧正月に幸運を家に招き入れるための飾り花として親しまれています。

中国名「寸寸金(すんすんきん)」——すなわち「一寸ずつの黄金」——という名が示す通り、着実な繁栄を招く縁起物として、長い背の花瓶に生けられたレンギョウの枝が玄関先を飾っています。

またレンギョウは中国の薬に纏わる植物の体系の中にも深く刻まれています。

漢の時代から記されてきた本草書、『神農本草経』に、また明代の本草学の権威書『本草綱目』にレンギョウの名は現れ、その実の図と共に、東アジアの伝統的な本草学の歴史的記録として残されています。

19世紀のヨーロッパ、ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、花が静かなメッセージを伝えるために生まれた「花言葉」の文化の中で、レンギョウには「期待(anticipation)」という意味が込められました。

葉より先に花だけが枝に咲くその姿が、まだ訪れないものを待ち望む心と重なって見えたことが理由かもしれません。

日本では家紋として「連翹紋(連翹襷紋/レンギョウタスキモン)」が存在しました。

それは、レンギョウの三つの花が背中合わせに咲き、その間から生えた葉や蔓が花を囲み、まるで一つの花の様な柄でした。

早春に葉に先駆けて咲く黄色の花を文様化したこの紋は、平安時代から存在する伝統柄「丁子唐草文様/チョウジカラクサモンヨウ」から発生したとも言われています。

この柄、「連翹紋」は千年前の平安時代中期の日本の公卿・藤原公季を祖とし、後に「閑院流」と名を変えることになる「藤原氏公季流/フジワラシキンスエリュウ」の代表紋として用いられました。

春を待つ存在としてのForsythia

花が終わると、レンギョウは淡い緑の葉を茂らせ、庭の他の低木の中に静かに溶け込んでいきます。

その存在を忘れかけた頃、翌春の暖かさとともに、再び枝を満たすの黄金色が目を覚まします。

18世紀、スウェーデンの植物学者トゥンベルグが日本の庭園で見つけたこの花は、何世紀も旅をした果て、現在では世界中の庭にその根を下ろしています。

ヨーロッパの修道院の庭に、北米の郊外の生け垣に、東アジアの路傍に——それぞれの土地で、それぞれの春を告げています。

コメント

Verified by MonsterInsights
タイトルとURLをコピーしました